日々、税理士業務を行うにあたって、経験したこと、感じたことを関与先の守秘義務を順守しつつ、わかりやすく文章にしていきたいと思いますので、お付き合いください。
2018年10月
洋画家 野口謙蔵 2018.10.29
旧蒲生郡出身の野口謙蔵はご存知でしょうか? 謙蔵は1901年生まれで東京美術学校(現東京芸大)西洋画科に入学し、卒業後は多くの画家が渡欧を目指す中、帰郷し蒲生の風景をひたすら描き続け、独自の「日本的洋画」を模索した洋画家です。1928年第9回帝展(帝国美術院展覧会(現日本美術展覧会))で「庭」が初入選し、その後も第10回「梅干」、第11回「蓮」が連続入選。そして、第12回「獲物」、第14回「閑庭」(写真右)、第15回「霜の朝」(政府買上げ 東京国立近代美術館収蔵:写真左)が帝展で連続して特選を受賞しています。なお、謙蔵は1944年43歳の若さで亡くなっています。
先日、有名なテレビの鑑定番組に謙蔵の12号の大きさの風景画が出品されていて、高額の鑑定額がついてました。謙蔵は中央画壇に全く興味がなかったため、世間ではそれほど知られていませんが、番組では謙蔵の略歴や人となりがしっかり紹介されていて嬉しかった。週末は久しぶりに「野口謙蔵記念館」(東近江市綺田町)行ってきました。この記念館は生前の謙蔵のアトリエを改築復元(写真:創作風景を再現/展示コーナー)したもので、多くの作品がここで生まれており、生前の謙蔵の制作風景を偲ぶことができます。まわりはのどかな田園風景で、これこそ謙蔵の愛した風景だと思いました。
『連結納税 事務負担軽く』 2018.10.21
政府税制調査会(首相の諮問機関)は10月10日に第17回総会を開催し、今後中長期的に、個人所得課税、資産課税、納税実務等の環境変化への対応、そして法人税の連結納税制度などのテーマについて議論を進める方向とのことです。(「週刊 税務通信」平成30年10月15日)そのなかで、退職所得課税制度に対する指摘もあったようで、日本の所得税制度は退職所得への優遇や給与所得控除額の多さが際立っているので、さすがにすこしでも諸外国並みに改正されていくものと思います。
法人税の連結納税制度については、日本経済新聞にも10月12日の記事『連結納税 事務負担軽く』でも取り上げられていました。子会社や孫会社の一部の税務申告の変更が起きると、グループ会社全体のやり直しになったのが、各社がそれぞれ個別に申告書をつくる案が浮上しているとのこと。たしかに、子会社や孫会社にとって(われわれ税理士にとっても)、そのやり直しが親会社のみならず、他の子会社や孫会社まで影響するのは、どうしてもプレッシャーになります。個別に申告書を備えて、変更が生じた部分のみの修正だけで済まそうとするのは、修正の簡素化の見地からもよい考え方だと思います。
この02年度に導入された連結納税制度、国内グループ会社の利益と損失の通算による法人税の低減がメリットとしてよく言われます。また、損失が生じている会社がなくても、試験研究費などの税額控除額をグループ全体で計算することで、法人税額が少ない単体申告より控除限度額の枠が増加することも、グループ全体の税額にとって大きなメリットになります。
秋の焼鯖の買い出し 2018.10.15
ことわざ『秋鯖嫁に食わすな』ではないですが、脂がたっぷり乗った秋の焼鯖が食べたくて、昨日は半年ぶりに福井県小浜に行ってきました。小浜は日本海に面しているため、海の幸をたのしめる寿し屋もありますが、わたしにとっておろし生姜とポン酢で食べる焼鯖がなにより絶品です。朝自宅を出発して11時ごろ小浜漁港近くにある「朽木屋商店」に到着。お目当ての焼鯖は残り少なかったですが、無事買い出しできました。電話すれば発送するとのことですが、このように現地に行って買うのがいいと思っています。
これで目的を達成したので、正午前「やまと寿し 本店」へ。ここは小浜で唯一の回転すし屋ですが、手軽に新鮮で大ぶりなネタをいただけるので、地元の方でほぼ満席になっていました。写真は、炙りの一本穴子と自家製アラ汁です。
帰り道は数ある小浜の古寺のなかで、渓流と杉林に囲まれた山里にある妙楽寺に立ち寄りました。写真の本堂と本尊の二十四面観音立像は、鎌倉時代の作で国の重要文化財。境内に参拝者はだれもいなくて、清々とした雰囲気が漂っていました。
『仕事がなくなる!?』 2018.10.09
日曜日夜のテレビ番組「NHKスペシャル マネー・ワールド~資本主義の未来~『仕事がなくなる!?』」を見ましたが非常におもしろかった。近い将来、人間の仕事はAIやロボットが担うようになり、労働者は雇用を奪われ、資本家は賃金を支払う必要がなくなる。一見資本家にとって都合のよいようだが、富が循環しなくなり資本主義は行き詰まり、やがて資本家自身も立ち行かなくなる。このような未来に、われわれはどのように生きていけばよいのかを、司会(太田 光、田中 裕二)、ゲスト(孫 正義 ソフトバンクグループ社長、新井 紀子 国立情報学研究所教授)がAIロボットの導入事例や出演者間の議論などをまじえて番組を進行していきます。
とくにゲストの新井 紀子さんが、資本家としてAIロボットの販売を推進する孫 正義さんに「このような状況でもっともメリットにあずかるのは、あなた方資本家なので、あなた方はこのような問題を解決する責任があるのでは」と忖度なしにおっしゃって、なかなか痛快でした。といっても、孫さん自身は資本家として当然のことをやろうとしているだけなのですが・・。
そして、またか!という感じで・・番組の中でAIロボットによる職業別 代替可能確率が紹介されていて(野村総合研究所 調査)、税理士は92.5%でした。また、税務職員は94.0%で、これは将来AIロボットさえあれば、納税者はだれにも頼らずに国や地方への納税が完了するということでしょう。運悪くわれわれ税理士の仕事はAIロボットが最も力を発揮しやすい分野のようです。何年後か十数年度かわかりませんが、AIロボットが進歩して、あるべき答え(もっとも税額が少なくなる申告)を人間の税理士より正確に導き出せるようになれば、人間の税理士の仕事はAIロボットの指示に従って、情報収集や入力がメインになるかもしれません。
「損益分岐点」より「キャッシュフロー分岐点」 2018.10.01
関与先様と四半期や半期経過ごとに、必要に応じて現在実績および当期の業績見通しの検討を行います。業種によっては売上高と費用の額がちょうど等しくなる「損益分岐点売上高」を使用しますが、最近では借入金返済額も含めた資金収支がゼロになる「キャッシュフロー分岐点売上高」を意識しています。
「損益分岐点売上高」の算出方法は、「固定費 ÷ {1-(変動費 ÷ 売上高)}」。たとえば、A社のある月の売上高が1000万円、経費が900万円(変動費500万円、固定費400万円)だったケースでは、「損益分岐点売上高」=固定費400万円 ÷ {1-(変動費500万円 ÷ 売上高1000万円)}=800万円。つまり、A社は月額売上高が「損益分岐点売上高」800万円を上回ると損益上利益が生じる財務体質であることが判ります。
一方、「キャッシュフロー分岐点売上高」の算出方法は、「(固定費-固定費のうち、減価償却費+借入金返済額) ÷ {1-(変動費 ÷ 売上高)}」。さきほどのケースで、A社のある月の売上高が1000万円、経費が900万円(変動費500万円、固定費400万円(うち、減価償却費50万円))で借入金返済額150万円があったケースでは、「キャッシュフロー分岐点売上高」=(固定費400万円 - 減価償却費50万円 + 借入金返済額150万円) ÷ {1-(変動費500万円 ÷ 売上高1000万円)}=1000万円。
つまり、A社は月の売上高が「キャッシュフロー分岐点売上高」1000万円を上回らない限り、損益上利益が生じても借入金の返済資金が不足する可能性があります。(納税資金については計算が煩雑になるため考慮していません。)借入金で事業を行っている場合がほとんどの中小企業にとって「損益分岐点売上高」より、資金収支がゼロになる「キャッシュフロー分岐点売上高」の方が、はるかに重要度が高い指標であるといえます。