日々、税理士業務を行うにあたって、経験したこと、感じたことを関与先の守秘義務を順守しつつ、わかりやすく文章にしていきたいと思いますので、お付き合いください。
改正電帳法、「宥恕措置」から「猶予措置」へ(①具体的な電子取引とは) 2023.10.23
改正電子帳簿保存法(改正電帳法)により、電子取引データは令和4年1月より電子保存が義務付けられましたが、令和4年度改正で「宥恕措置」が創設されたことにより、ひとまず電子取引データは出力した書面保存が認められていました。ただ、令和5年12月31日でこの「宥恕措置」は廃止され、令和6月1月1日以降は令和5年改正により「猶予措置」へ移行します。ただ、この「猶予措置」において電子データについては電子保存が求められますので、その準備が必要になってきます。0023006-085_01.pdf (nta.go.jp)0023006-085_02.pdf (nta.go.jp)
そもそも電子取引といわれるものは意外と多く、具体的には次のようなものが電子取引に該当します。①電子メール(メール本文・添付ファイル)による請求書・領収書 ②インターネットサイト(Amazon、楽天市場、モノタロウ等)からの物品購入 ③公共料金の請求書についてインターネットでの確認・入手 ④クレジットカード利用明細のインターネットでの受け取り ⑤電子決済サービス(電子マネー・二次元コード決済等)の利用 ⑥電子(Web)請求書や電子(Web)領収書の受け渡し ⑦複合機のFAX機能を使った取引情報の電子データでの受け取り(紙出力なし) ⑧DVDやフラッシュメモリでの請求書や領収書のデータの受け渡し ⑨専用のシステム(EDIシステム)を利用した取引 ⑩請求データのインターネットでの受け渡し ⑪従業員がネットで購入した旅費(航空券、新幹線切符等)の立替払いに精算(「TKC改正電子帳簿保存法特集号Ⅱ」より」
また、「猶予措置」により電子取引データの電子保存が必要になる一方、保存要件(「真実性の確保」および「可視性の確保」を満たす)に従って電子保存できなかったことにつき、所轄税務署長が相当の理由があると認め(保存義務者からの手続きは不要)、かつ税務調査での電子取引データのダウンロードの求めおよび出力書面の提示または提出の求めに応じることができるようにしている場合、電子データの保存要件は不要になります。また、「猶予措置」の他にも、検索要件が不要になる「検索要件不要措置」が設けられていますが、内容については次回ご説明したいと思います。
厚労省、「年収の壁・支援強化パッケージ」を公表 2023.10.16
厚生労働省は9月27日、年収が一定額を超えると所得税や社会保険料が増えるいわゆる「年収の壁」に対して、10月スタートする「年収の壁・支援強化パッケージ」を公表しました。社会保険料に関する壁は106万円と130万円とがあり、大きくその金額を超えない限り、社会保険料負担が収入増を上回り手取り額が減ってしまうことになるので、今回は主に社会保険の壁を対象としたものになっています。いわゆる「年収の壁」への対応|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
「106万円の壁」への対応としては、① 被用者保険の新適用時に労働者の収入を増加させる取組みをした事業主に労働者1人につき最大50万円を支援(キャリアアップ助成金)② 事業主が被保険者保険適用に伴い手取り収入を減らさないよう手当(社会保険適用促進手当)を支給した場合は、被保険者の標準報酬月額の算定から同手当を除外。「130万円の壁」への対応は、残業等による一時的な増収でも事業主の証明で被扶養者認定が可能になりました。その他として、企業が配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順等がフローチャートによって公表されます。Microsoft PowerPoint – 05_Â ÇŽ _ tÎnÁ xnSbnþÜV.pptx (mhlw.go.jp)
この「年収の壁・支援強化パッケージ」は、とくにパートタイムで働く方にとっては朗報といえるかもしれません。ただ、あくまで今回の対策は2025年に予定されている抜本的な年金制度の改正までの時限措置にすぎません。これによって年収の壁を超える労働を定着させ、その後は短期間労働でも厚生年金に入る対象企業の適用を拡大し、働く人すべてに社会保険を適用する方向へ向かうこともありえます。
「低未利用地等の譲渡特例」、今年の譲渡から適用範囲が広くなりました 2023.10.10
令和5年度税制改正の大綱において、「低未利用地等の譲渡特例」については、その適用期限を3年延長し、また適用範囲が広くなりました。「低未利用地等の譲渡特例」とは、地方部を中心に全国的に空き地・空き家が増加する中、新たな利用意向を示す者へ土地の譲渡を促進する目的で令和2年7月1日から導入されたもので、一定の未利用地を500万円以下で譲渡した場合、長期譲渡所得の金額から最大100万円(約20万円の税額低減)を控除できる制度です。001491974.pdf (mlit.go.jp)
今回の改正では、令和5年1月1日から令和7年12月31日までの間に譲渡された低未利用土地等が、『① 都市計画法に規定する市街化区域 ② 都市計画法に規定する区域区分が定められていない都市計画区域のうち、用途地域が定められていない地域 ③ 所有者不明土地対策計画を作成した自治体』の①から③のいずれかの区域内にある場合、譲渡対価の額の合計の範囲が「500万円以下」から「800万円以下」へ広げられました。平成26年度税制改正及び土地住宅政策に関する提言書(案) (zentaku.or.jp)
適用にあたっては申告前に(税務署でなく)市町村の確認を受ける必要があります。具体的には土地の所在地の市町村に申請書(添付書類:売買契約書、登記簿謄本、低未利用地だったことを証明できる書類、譲渡後の利用について確認できる書類)を提出し「低未利用地等確認書」を発行してもらい、所得税の確定申告書に添付して所轄税務署に申告します。確認書の発行には通常約1週間~3週間かかり、また年明けからは納税者の申請も集中することも予想されますので、それも踏まえて早めに準備されることをお勧めします。
来日5年を経過する外国人の方、来年確定申告が必要なケースも 2023.10.02
ことしも残り3か月を切り、そろそろ来年3月15日に期日となる令和5年分の確定申告が必要かどうか、そして納税額がどのくらいになるか、前もって確認しておく時期になりました。とくに日本にお住いの外国人の方で、もしことし来日後5年を経過し、本国で不動産所得や年金所得などがある場合、日本国内で確定申告が必要なケースも考えられますので、自身の申告要否の把握が必要です。
日本の所得税の取扱い上、日本に居住する外国人の方はその居住形態によって、課税される対象の所得が大いに異なります。まず、「居住者」、「非居住者」のどちらに該当するか、そして「居住者」に該当した場合でも「非永住者以外の居住者(永住者)」か「非永住者」を判定することが重要です。そのうち「非永住者」とは、『居住者のうち日本国籍がなく、かつ、過去10年以内の間に日本国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下である個人』になります。No.2010 納税義務者となる個人|国税庁 (nta.go.jp)
そして、「非永住者以外の居住者(永住者)」の方の課税対象の範囲は、所得が生じた場所が日本国の内外を問わず、そのすべての所得に対して課税対象(全世界課税方式)になります。したがって、年の中途で5年が経過し「非永住者」から「非永住者以外の居住者(永住者)」になった場合、それ以降の期間(令和5年6月30日で5年経過のケース:令和5年7月1日~12月31日)は本国で生じた所得も含めて、日本での確定申告(令和6年3月15日まで)が必要になると考えられます。
10月1日から新たに課税事業者になる方へ 2023.09.25
消費税インボイス制度の開始される10月1日まで、あと1週間を残すのみとなりました。新たな制度であるため、各事業者にとってその準備や対応が必要になりますが、特にいままで免税事業者として消費税の申告・納税や事務負担がなかった小規模事業者の方にとって、制度開始以降は最低限、次の項目について準備する必要があります。
まず、取得された「適格請求書発行事業者番号」(インボイス番号:T●-●●●●-●●●●-●●●●)を得意先に通知されましたでしょうか。得意先もあなたがインボイスを発行するかどうかで取扱いが異なってきますので、まだお伝えてしていない場合はすぐに伝えるようにしてください。また、インボイスとなる書類(請求書・領収書・レシート・納品書など)には、取得された「適格請求書発行事業者番号」を記載する必要があります。ただ、インボイスの様式自体は制度開始前の様式を引き続き使用しても問題ありません。
また、売上げに対して返品値引・割戻し等の取引をおこなう場合、「返還インボイス(適格返還請求書)」の発行が必要になり、得意先より返品を受けた際には「返還インボイス」を発行できるよう準備しておかなければなりません。一方で、税込金額が1万円未満の取引については「返還インボイス」を交付する必要はありませんが、この場合は消費税法上の売上にかかる対価の返還等として「売上値引き」処理する必要が出てきます。少額な返還インボイスの交付義務免除の概要|国税庁 (nta.go.jp)
9月27日(水)は、消費税中間申告分の振替日になります 2023.09.18
個人事業者の方で、令和4年分の確定消費税額(地方消費税額は含みません)が48万円を超える方は、消費税及び地方消費税の中間納付が必要になります。その中間申告分(年1回)の法定納期限は8月31日(木)でしたが、すでに振替納税の手続きをされている個人事業者の方については9月27日(水)に指定された預貯金口座から引落しされますので、あらかじめ預金残高の確認をお願いします。中間申告分の納期限及び振替日について|国税庁 (nta.go.jp)
消費税の中間納付とは前年の納税額を基礎として、その年の消費税を先払いする制度で、最終的に確定申告では正しい税額を算出して差額分を納税(払い過ぎの場合は還付)します。消費税の課税期間は原則1年(届け出により3か月ごと又は1か月ごとに短縮することも可能)ですが、あまりに大きな金額になると一括払いが納税者の負担になってしまいます。そこで、税額が大きくなるほど分割して、納税の負担を分散しようとする目的から中間納付という仕組みがあります。
ただ、どうしても振替日に残高が不足してしまう場合、振替納税ができなくなってしまい、法定納期限の翌日から納付日までの期間に対応する延滞税が本税と納付する必要が出てきます。もし、振替日に納付できない事情がある場合、所轄の税務署(徴収担当)に説明して手続きを進めれば、滞納処分の猶予や延滞税の軽減など受けられることもありますので、前もってご相談されることをおすすめします。No.9206 国税を期限内に納付できないとき|国税庁 (nta.go.jp)
インボイス制度、「出張旅費特例」と「公共交通機関特例」 2023.09.11
来月10月1日からの消費税インボイス制度の施行にともなって、かなりあわただしくなってきました。国税庁のインボイスコールセンターインボイスコールセンター(インボイス制度電話相談センター)|国税庁 (nta.go.jp)は、問い合わせに対し電話が繋がりにくくなっているそうです。弊所も今週から月次契約等の関与先様へ『インボイス対応 チェックしておきたい11のポイント』(㈱TKC出版)を配布し、自社の対応状況をチェックしていただき、不足している点はこちらでサポートできるようにしています。
最近は、「出張旅費特例」についてのご質問をいただくことが多いです。たとえば、出張旅費でインボイスの宛名が従業員になっている旅費を立替払いした場合、その会社が仕入税額控除を行うには、「立替精算書」と「従業員宛インボイス」が必要になります。一方で、その会社が従業員に対し(できれば旅費規定に基づく)一定額の出張旅費を支払った場合、「立替精算書」と「従業員宛インボイス」の保存の必要はなく、一定の事項を帳簿に記載することで足ります。
また、「公共交通機関特例」は、3万円未満の公共交通機関の運賃が対象ですが、航空券やタクシーについては対象外で、前述の「出張旅費特例」の対象のみになります。ちなみに、個人タクシーの運転手が加盟する個人タクシー協同組合は組合員にインボイス登録を推奨したそうです。法人利用の顧客が個人タクシーを避けることがないようにするための処置ですが、今後利用する買手側だけでなく売手側にもいろんな対応が出てくると思います。
来月から完全子法人株式等からの配当等、源泉徴収ナシへ 2023.09.04
令和4年度の税制改正により、来月10月1日以後に支払いを受けるべき配当等で、「完全子法人株式等(株式等保有割合100%)に該当する株式等」または「発行済株式等の3分の1超を保有する株式等」に係るものは、所得税を課さないこととし、その配当等に係る所得税の源泉徴収を行わないことになります。0022004-066.pdf (nta.go.jp)たとえば、親会社が完全子法人等より1,000,000円の配当を受け取る場合、源泉徴収税率20.42%の204,200円の控除した795,800円(1,000,000円-204,200円)の支払いを受け、その完全子法人等は204,200円を源泉所得税として国に納付します。これが、2023年10月1日以降、親会社が完全子法人等より配当金1,000,000円を受取るのみで済みます。
ある通信大手会社は、2018年に傘下の中間持株会社が保有していた関連会社の株式を約16億株売り、利益として2019年に約2兆円の配当金から受領しましたが、その際約4千億円の所得税を源泉徴収で支払いましたが、当該会社には同額が還付されました。そのとき還付加算金(納め過ぎた税金を還付する場合、日数に応じて加算される金額。利息のようなもの)は1億3千万円だったそうです。会計検査院の調査したところ、2017年~19年度にのべ888社で還付加算金が生じていて、その金額は約3億6500万円超にのぼったそうです。今回の件に関しては、源泉徴収制度という納税者に一定の事務負担を強いて、税金を確実にとるためシステムが、巨額の税金の無駄遣いが生じている現実を知ることができます。
インボイス制度の開始と「少額特例」について 2023.08.28
10月1日の「消費税インボイス制度」施行まで残り1か月余り。弊所から月次契約の関与先様へは、今月8月はTKC出版 冊子『仕入インボイスを受け取るときの注意点』(写真左)、来月9月(中旬予定)も冊子『インボイス対応 チェックしておきたい11のポイント』を配布し、できるだけ関与先様がスムーズにインボイス対応できるよう、またインボイス制度に関するご質問を受けることも増えてきました。
実務上の対応にあたっては、まず「少額特例」の適用があるか否かの確認が必要です。「少額特例」とは、1万円未満の課税仕入れについて、インボイス(適格請求書等)を保存することなく、帳簿のみの保存(その適用の趣旨や相手方の住所等の記載は不要)で仕入税額控除の適用が可能な制度。少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要|国税庁 (nta.go.jp)これによって少額取引についてはインボイスの発行の有無を気にしなくてよくなりますが、一方で実務上1万円未満と1万円以上の課税仕入れを区分する事務負担が増えることになります。
対象となる事業者は、基準期間の課税売上高が1億円以下または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者ですが、年間売上高が1億円あたりを推移している事業者については、事業年度ごとの確認が必要でその特例は施行後6年間継続します。また、先のことになりますが、この「少額特例」だけでなく「80%・50%経過措置」も含め6年間の時限措置のため、課税期間の途中でも6年目の2029年9月30日には終了します。それ以降は、原則どおりインボイスの有無だけで税区分が決定することになります。
8月末は個人事業者の消費税中間申告の法定納期限になります 2023.08.21
消費税の課税期間は原則1年とされていますが、直前の課税期間(令和4年分)の確定消費税額(中間申告対象期間の末日である6月末までに確定した消費税の年税額(地方消費税は含まない))が48万円を超える事業者は中間申告が必要になります。中間申告の回数はその直前の確定消費税額の金額によって年1回・年3回・年11回がありますが、個人事業者は年1回がほとんどで、その納期限は8月31日(木)になるので、対象の方には所轄税務署から「(納付書)領収済通知書」がすでに届いていると思います。
あらかじめ振替納税制度を採用されている事業者については、ことしの振替日の9月27日(水)が近づいてきましたら、振替用の銀行口座の残高の確認をお願いします。また、納期限の8月31日まででしたら、あらかじめ「預貯金口座振替依頼書」を提出(e-Tax可能)すれば、いままで振替納税制度を利用されなかった方も新たにこの振替納税制度を利用することができます。[手続名] 申告所得税及び復興特別所得税、消費税及び地方消費税(個人事業者)の振替納税手続による納付|国税庁 (nta.go.jp)
消費税の中間申告の制度については、「中間申告対象期間(年1回の場合、令和5年1月1日から6月30日まで)」を一課税期間とみなして納付すべき消費税額等の税額を計算する仮決算の方法もあります。直前の令和4年分と比べて課税売上高が大きく減少又は仕入高が増加したケース、多額の固定資産の取得があったケース(簡易課税制度を採用している場合を除く)など、仮決算を行う労力はかかりますが、中間納付の金額を減少させることができ(ただし、計算した税額がマイナスになっても還付は不可)、当面の資金繰り負担を軽減させることができます。